平安貴族の朝


 今から15年程前、日本中に安倍清明ブームが沸き起こったことは皆さんご承知だと思います。それまでどことなくおどろおどろしいイメージのあった、もしくは全く世間に知られていなかった陰陽師という存在に、突然と明るいスポットが照らされ、特に若い女性たちの心を捉え、女性誌やテレビ、そして映画化もされて、安倍清明は一躍時代のヒーローとなりました。

 安倍清明は、平安時代中期に活躍しました。その時代には平安貴族が日記をつける習慣が広まったようで、その日記から当時の平安貴族たちの様子も推測できるようです。その中で、特に現代の私たちにも共通するのが朝の忙しさです。


 繁田信一著の『陰陽師』の中には、ある貴族の朝食前のこんな記述があります。
  
  
@ 属星(ぞくしょう・自分の運命を支配する星)の名を唱える
  A 鏡を見て顔の点検をする
  B 暦を見て日の吉凶を確認する
  C 楊枝(ようじ)を使って口をきれいにする
  D 西に向かって手を洗う
  
E 守護仏の名を唱える
  F 尊崇する神社に祈念する
  G 前日の出来事を日記に記す

 これだけのことを毎朝済ませていた平安貴族は、なかなか忙しかったようです。上記の8項目の中で、特に@の属星とEの守護仏については、ほとんどの方がご存知ないと思いますので、少し解説いたします。


 
@ 属星について

 属星とは七星占(しっしょうせん・飛鳥時代に中国より伝来し、平安時代に盛んになった、人間の運命を北斗七星に当てはめて占う占術の事)で使用される、自分の本命星のこと。属星には生まれ年別に7つの星がある。

 午年生まれ      破軍星(はぐんしょう)
 巳・未年生まれ    武曲星(ぶごくしょう)
 辰・申年生まれ    廉貞星(れんていしょう)
 卯・酉年生まれ    文曲星(もんごくしょう)
 寅・戌年生まれ    禄存星(ろくぞんしょう)
 子年生まれ      貪狼星(どんろうしょう)
 丑・亥年生まれ    巨門星(こもんしょう)


 
E 守護仏について

 子年生まれ      千手観音菩薩(せんじゅかんのんぼさつ)
 丑・寅年生まれ    虚空蔵菩薩(こくぞうぼさつ)
 卯年生まれ      文殊菩薩(もんじゅぼさつ)
 辰・巳年生まれ    普賢菩薩(ふげんぼさつ)
 午年生まれ      勢至菩薩(せいしぼさつ)
 未・申年生まれ    大日如来(だいにちにょらい)
 酉年生まれ      不動明王(ふどうみょうおう)
 戌・亥年生まれ    阿弥陀如来(あみだにょらい)


 平安貴族は@の属星を毎朝の起床と共に7回唱えたようです。これをすることによって、自分の行いの正しさを北斗七星に表明することになるからだそうです。

 Fの尊崇する神社に祈念するとは、現代では自宅の神棚やお札に朝拝するということになるでしょうか。
  
 さあ、属星と守護仏がわかれば明日からでも平安貴族の朝食前の儀式を体験することが出来そうです。興味をもたれた方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。




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