積陰徳


 2007年末に出版された『開運術としての風水』(清水顕子 著・ソトコト新書)の中に、中国の格言を通した風水の本質や陰徳についての記述があります。そこでその記述を通して、『陰徳を積む』ということについて考えてみたいと思います。


中国の格言

 
 『中国には1に宿命、2に運、3に風水、4に積陰徳、5に読書という格言があります。

 宿命とは天命とも言われ、日本人として生まれて、○○家に生まれてきたこと、性別、誕生日などの変えられないことを言います。

 運とは、何をやってもうまくいったりいかなかったりという、人生のバイオリズムで、言い方を変えれば宿命が車で、運がその車の走る道とも言えます。車がフェラーリなのかBMWであるか、旧東ドイツのプラスティックボデイ大衆車のトラバントであるのかで、各種の性能は異なります。しかし、渋滞に巻き込まれると、車種(宿命)に関係なく身動きが出来なくなります。これは運が停滞するということです。しかし渋滞が緩和されると、フェラーリはスピードを上げ、他車との距離を大きくします。これは車が持つ性能の違いです。また、走行する道が首都高速なのか一般道なのか砂利道であるのかの違いとも言えます。

 3番目に風水があります。風水はその人が持っている運を早めたり、最大限に生かすことが出来ます。半分しか水で満たされていないグラスを、水でいっぱいに満たすことが出来ますが、グラスをビールジョッキに大きくすることは出来ません。これはその人が持つ器であり、その器の大きさは宿命に近いかもしれません。そして、宿命は風水で変えることは出来ません。

 4番目の積陰徳は、人知れず似行う善行であり、世間に知られない行いです。良いことをすると、それが自分にも返ってくるということです。陰徳あれば陽報ありともいい、陰徳を積むことが人間には大切であり、これが開運にもつながります。

 5番目に読書です。日本語では勉強という意味で、いくつになっても学ぶことの大切さを説いています。覚えておいていただきたいのは、宿命や運命は風水よりも強力なことです。風水で人の人生は変えられません。(開運術としての風水より抜粋)

 

陰徳とは


 つまり宿命と運は別として(風水では、各々が持つ先天的な宿命・運命を変えることは不可能ということです)、陰徳を積むこと・勉強学習をすることがとても大切なことがわかります。さらに、勉強学習の前に、積陰徳が重要視されているということです。徳とは、『他人のために自分が何をしてあげているのか』ともいえ、徳を積んでいるかいないかにより、いくら風水を施しても、その効果に違いがあるともいえそうです。生まれ持った自分の器をいっぱいに満たすのも、この徳なしでは不可能なことです。

 陰徳を積むと一言で言っても、それはなかなか大変なことです。なぜなら、『人知れず』に行いをしなければいけないし、『見返り』を望んではいけないからです。相手の為を思っての人知れずの善行であっても、少しでも見返りを期待すると、それは陽徳になってしまいます。

 

敬神生活の綱領


 こう考えると、陰徳を積むことが難しくなりそうに思えてきますが、神社の理念の中に、そのヒントが隠されていますのでご紹介します。神道には『敬神生活の綱領』という、神社信仰における実践生活の規範を示したものがあります。その内容は下記の通りです。

1.神の恵みと祖先の恩とに感謝し、明き清きまことを以って祭祀にいそしむこと
2,世のため人のために奉仕し、神のみこともちとして世をつくり固め成すこと
3、大御心をいただきて、むつび和らぎ、国の隆昌と世界の共存共栄とを祈ること

 我々は、天地自然のお恵みによって生かされています。大地に住み、太陽・水・空気の恩恵を受け生命をつないでいます。そして、祖先のお陰によりこの世に生を受けています。祖先あっての自己を考えるとき、祖先の恩・天地の神々の恵みに感謝の気持ちを持つことは当然のことです。自宅の神棚に手をあわせたり、神社参拝時には自分の願い事をする前に、まずは感謝の念を神様に伝えることがいかに大切なことかお分かりになると思います。

 そして、家族をおさめ隣近所の付き合いを良くし、人々のために奉仕すること。自分一個の為の幸福だけでなく、自分以外の人々の幸福のためにも手を差し伸べることです。他人の喜びを自分の喜びとする精神、ここに神道の理想のひとつがあります。自分だけ、自国だけが栄えればそれでよいという狭い心ではなく、世界の人々と互いに助け合って生きていく理想が、この綱領には込められています。

 

最後に


 さて、ヒントになったでしょうか。昔から日本人がずっとしてきた『神仏を敬う』・『祖先を敬う』・『自然や大地の恵みに感謝する』・『隣近所との付き合いをきちんとする』などのことが、陰徳を積むことにつながるのです。そして、ボランティア活動や地域活動なども当然陰徳を積むことになります。環境に配慮した生活を送ることも大切でしょうし、以外かもしれませんが、いつも笑顔で人を幸せな気分にさせていること自体が陰徳行為になります。ただし、それを自慢したり、傲慢な態度をしたり、人を嫉妬したりすると、積み上げた陰徳は減ってしまうようです。

 中国の格言から、陰徳を積むことの大切さについて考えてみました。著者は『日々の生活を頑張って生きている人には、風水によって何らかの結果が出ます。いつ、どんな状態で、どのように結果が出るのかは、風水師自身もわかりません。それは、人それぞれの状況や宿命である器の大きさによって異なります』と結んでいます。

 今や、多くの日本人に認知され、実際に生活に取り入れている方も多い風水ですが、実は風水以前に、『日本人として、あるいは人としてきちんとした生き方をする』ことが大切なようです。

 




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