竈の神様

 
八百万(やおよろず)の神といわれるように、我々日本人は古代より現代まで数多くの神々をお祀りしてきました。山には山の神が、川には川の神が、この自然界のあらゆるものには神が存在すると信じてきました。当然我々が生活を営む「家」の中にも神は存在します。その中でも最もポピュラーな神様が、台所にお祀りされる「竈三神」・「三宝荒神」です。

 現代社会では、安全性の問題からオール電化と呼ばれるマンションが一般化するなど、台所においてもガス器具さえなく、火の気の全くないキッチンも増えていますが、薪を燃やして煮炊きをしていた時代には、竈は食材を調理し命をつなぐ食事を作る大切な場所でした。

 そもそも古代人にとって、火をおこすことは並大抵のことではなく、時間と労力を費やすものでした。その火は外敵から身を守る火であり、暖をとる火であり、食事を作る火であり、火が生活を支えていたわけですから、そこに神を感じ、日を神聖なものとして捉えていたはずです。事実、縄文人には火の信仰が強かったようです。

 竈の神様は、神社系と仏教系の2種類に分類されます。神社系の神様は,奥津彦神(おきつひこのかみ)・奥津姫神(おきつひめのかみ)・迦具土神(かぐつちのかみ)の三神を合わせて、竈三神と呼ばれます。奥津彦神・奥津姫神は竈を司る神であり、そこに火の神である迦具土神を加えて竈の神としています。

 仏教系の神様は、三宝荒神と呼ばれ、仏(仏様)・法(教え)・僧(お釈迦様の教えを守る人)の三宝を守護する神様とされます。主に修験道などが信仰していた神様のようで、如来荒神(にょらいこうじん)・鹿乱荒神(からんこうじん)・忿怒荒神(ふんぬこうじん)のことを指します。「荒神」からも想像出来るように、火の神は普段は人間生活に多大な恩恵を与えてくれますが、ひとたび人間が神を怒らせる と、家や財産などの全てを焼き払ってしまう荒ぶる一面を備えています。ですから竈は常に清浄な状態を保っていなければいけません。

 迦具土神は愛宕神社や秋葉神社の御祭神でもあり、火防(ひぶせ)の神としても知られていることからもわかるように、我々の祖先は竈の火を大切にし、その火を守護する神様を手厚くお祀りすることによって、一家の繁栄と防火を祈念してきたのです。

 竈の神様は民間信仰と言っても良いものですが、家庭から竈が消えてしまった現代でも、多くのご家庭で台所に「竈三神」や「三宝荒神」の御札をお祀りし、竈の神様の信仰を大切にしていってもらいたいと思います。

 




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